ガロア理論すげえ。

 

 本記事は京大アイマス研910productionのアドベントカレンダー

adventar.org

の十一日目分です。今日へ至るまで執筆者のほとんど全員が頑なにアイマスの話をしようとしないので、僕は逆にアイマスの話をしようと「ジュリつばって実質ちはみきじゃん」というタイトルで書き進めていた原稿が本当はあったのですが、それ以上に別の話をしたくなってしまったのでまたの機会ということになりました。世に出ることは、まあないと思います。よろしくお願いします。

 

 今回はエヴァリスト・ガロアというある有名な数学者についての話と、それに関して自分が感じていることを書きたいと思います。彼の名前を聞いたことがないという人がもしかするといるかもしれませんが、ある程度は下で説明しますので安心してください。より詳しく知りたい方はwiki等を参照してください。なお僕の偏った知識だけで書いているので、そこら中に誤り等が含まれていると思われます。ご了承ください。

 

 エヴァリスト・ガロアは「ガロア理論」という数学上の一理論*1を築き上げた十九世紀初頭の数学者です。現代において、ガロア理論は数学科の大学生が主に三回生時点で学ぶ理論です*2ガロアがこの理論を論文として書き上げた当時、しかし、その内容はどの数学者にも、現代にまで名を残しているような偉大な数学者たちからでさえも理解されることはありませんでした。それもそのはずで、ガロア理論は当時全く確立されていなかった群論と体論*3との間に在る関係性を記述したものだったのです。群論と体論、それぞれの研究がそれなりに進んだのは、ガロアの死後半世紀ほど経ってからのことで、つまり、ガロア理論は時代を先取りしすぎていたというわけです。この時点で相当のヤバさが窺い知れるわけですけれど、そんなガロアはこの理論を用いた「第一論文」内において「とある定理」を証明し、その後、決闘を原因にこの世を去ってします。「第一論文」のほかに後二つ論文を書くだけのアイデアが自分にはある、とガロアは言い残していますが、それが世に出ることはついにありませんでした。享年は二十歳。たった二十年ほどの生涯の間に、しかし何十年も先の数学を確と見据えていた人物、それがエヴァリスト・ガロアという数学者です。

 

 彼が打ち立てたガロア理論についても話します。この節は蛇足というか、別に読んでも読まなくてもいい部分なので「長ったらしい文章は嫌だ」という人は読み飛ばしていただいて構いません。

 先にも述べたようにガロア理論群論と体論との間に在る関係性を記述したもので、特に「自己同型群の部分群」と「ガロア拡大の中間体」との間に全単射写像が存在する*4ということを述べています。詳細を語ろうとすれば定義すべき事柄があまりにも多すぎるので各用語の説明をこの場で行うことはしませんが、より噛み砕いて言えば「群をいい感じに小さくすること」と「体をいい感じに大きくすること」が本質的に同義であるということをガロア理論は主張しています。ガロアはこの理論を「第一論文」内で「とある定理」の証明に用いたわけですが、そこで証明された定理のステートメント自体は高校生くらいなら知っているようなことで、何なら中学生でも数学が好きな子なら普通に知っていそうなことです。

 

・アーベル–ルフィニの定理

 五次以上の一変数代数方程式を代数的に解く方法は一般には存在しない。

 

 いわゆる、五次以上の方程式に解の公式は存在しない、というやつです。僕は中学の頃に数学を教わっていた塾の先生から、二次方程式の解の公式について学んだときに一緒に教わった記憶があります。この定理はガロアよりも先にニールス・アーベルという数学者*5によって完全な証明が与えられたのですが、ガロア理論の方がずっと優れた証明法だったということで、この定理は現代においては主にガロア理論の具体的な応用例として有名です。

 群と体を繋ぐガロア理論、代数方程式の不可解性、一見無関係のように思える両者はいったいどのようにして結びついているのでしょうか。「一般的な代数方程式を代数的に解く」ということは「与えられた代数方程式の係数のみを用いた四則演算及び冪根のみですべての根を表現する」ということです。このことが困難である理由の一つとして、たとえば単なる一変数整数係数多項式であっても一般には無理数解や複素数解を持ち得る*6ように、各係数を含んだ領域よりも根全体を含んだ領域の方が一般的に大きくなるということがあります。大学受験で整数問題に苦しめられた経験のある人ならばすぐに分かることかとは思いますが、ある整数問題が目の前にあったとして整数解を求めろと言われれば、その解がありそうな範囲を片っ端から限定していくのが王道的な方法です。単に解の候補が減りますからね。しかし、代数方程式を一般的に解こうとすると、どうしてもその真逆をゆくことになってしまうのです。だから難しい。三次方程式の解の公式を一度でも見たことがある人なら何となくわかるだろうと思います。高々三次であの複雑さですよ。どないすんねんお前って感じです。

 ここでようやくガロア理論と代数方程式の不可解性がどのように結びついているのかという疑問へまで話は戻るわけですけれど、察しのいい方は既に見当がついているのではないかと思います。先ほど僕は「各係数を含んだ領域よりも根全体を含んだ領域の方が一般的に大きくなる」と述べましたが、ここで大きくなると言われている領域、それがこの節の冒頭に登場した「体」なのです。そしてガロア理論は「群をいい感じに小さくすること」と「体をいい感じに大きくすること」が本質的に同義であるというものでした。つまり、こういうことです。

 

代数方程式を一般的に解きたい。

解こうとするとどうしても領域が大きくなってしまう。

難しい。

領域Aが大きくなると同時に、実は別の領域Bが小さくなっている。(ガロア理論

領域Bについて考察すればよい。

 

 大まかにはこういった議論によって、n次方程式の可解性問題は最終的にn次対称群の可解性問題へと帰着されます。n次対称群そのものは理系なら学部一回生の線形代数で習う内容ですね。対象群の可解性はさほど容易ではないわけですが、まあとりあえずこのようにして、そのままでは複雑な問題を全く別の舞台へ持っていくと比較的楽に議論できるようになるという事象は、数学では頻繁に起こります。ですが、そのことを知るためには、研ぎ澄まされた洞察力に精密な理論を築くための知識、何よりも問題の本質を見抜くための感覚が不可欠であり、そうして、それらをすべて兼ね備えていた偉人たちこそが今日の学問を支えているのです。

 

 脱線しすぎました。別にガロア理論そのものは今回僕が話したかったことに全く関係なかったのですが、しかしガロア理論は僕にとって非常に興味深いテーマであって、かつちょうどいま現在学んでいる最中ということもあり、今回の記事でほんのちょっとですけれど共有しておくことにしました。いよいよ来週の講義で五次方程式が代数的に解けないことの証明をやるらしいんですよね。めちゃくちゃ楽しみ。

 大して数学に触れていない僕がこういうことを言うのは憚られるのですが、ガロア理論は本当にすごい理論なのだという感覚が自分の中であって、毎週火曜日の代数学の講義において、ガロア理論の深遠さから導かれる非自明な定理*7を学ぶたびにその感覚はより強固なものへとなっているのです。僕はこのような素晴らしい理論を後世に遺してくれたガロアに感謝をしていますし、それを好きなように学ぶことのできる現環境にもやはり感謝すべきなのだろうなと感じています。残念ながら僕はいわゆる天才と呼ばれるような存在では決してなくて、そんなことはまあ分かりきっていることなのですが、でも、だからこそ、人類史に現れた天才の一人として必ず名を挙げられるような彼が、数学者エヴァリスト・ガロアが、その目で捉えていたのであろう世界の断片を自分自身もまた垣間見られることに、この上ない幸せを感じるのです。それと同時に少し悲しくもあります。ガロアの脳内世界にはもっと奥深い数学が広がっていたに違いないのに、しかし僕たちがそれを知ることは永遠に叶わないのです。

 バイト先へ向かう途中の電車の窓から外側をぼんやりと眺めながら、最近はそんなことをよく考えています。本当に色んな人がいますよね。踏切の前で端末をぼーっと眺めている人、自転車をゆっくり押している人、黙々と畑を耕している人、車の扉に手をかけようとする人。彼らの存在はほんの一瞬だけ僕の世界へ入ってきて、一秒もしないうちにすっかりと消えてしまいます。何だか面白くないですか? この世界には色んな人がいて、一人一人それぞれの物語があって、世界があって、しかし僕たちは自分でない全く別の観測者になることは決してできない。みんな違ってみんないい的な綺麗事を知ったような顔で唱える人は多くいますけれど、でも僕ら人間はそういったことを普段はまるで意識しないじゃないですか。多分全く考えないじゃないですか。それってすごく勿体ないことだと思うんです。色んな人の話が聞きたいと時場所問わずに僕は言い続けていますけれど、今回の話にしたって結局はそういうことなのです。色んな世界を覗いて、色んなことを感じて、そうでもしていないと自分がいま何のために此処にいるのかが分からなくなるような気がして、だからこういった話を僕はよくするし、よければ周りの人にも話してほしいなあ、と常日頃から思っています。

 

 明日の記事はymdさん担当です。一体どんな話を書いてくれるんでしょうね。たのしみ~。

 

 

@1TSU8

 

 

 

*1:代数学分野

*2:京都大学理学部においても三回生配当とされている

*3:これも代数学の分野。群論は情報学などでも用いられる

*4:簡単に言えば一対一に対応する

*5:有名な数学者。アーベル群やアーベル総和法などに名を冠している。享年は二十六歳

*6:たとえばf(x)=x^2+1は非実数である±iを根に持つ

*7:最近感動したのは円分多項式の既約性証明です