芹沢あさひと26の不思議

 

これは京大アイマス研910Productionアドベントカレンダー21日目の記事です.

adventar.org

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これは芹沢あさひ。かわいい。

枠が余っているらしいので,途切れさせるのも何だしなあということで記事を書くことにしました.といっても事前準備とかは全くなく,なんならもう21日に突入してるので,自分がサクッと話せる範囲で万人受けしそう(本当に?)な話を書こうと思います.もちろん数学の話です.覚悟しろ.

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これは意味のない芹沢あさひ。かわいい。


今回は次の命題について話します.

 

命題1
左から平方数,右から立方数によって挟まれるような正整数は 26 しか存在しない.

 

無数にある自然数の中でも 26 という数しか満たさないという,少し不思議な性質です.25 \lt 26 \lt 2725 = 5^ 2 , 27 = 3^ 3 なので,たしかに 26 の左は平方数で右は立方数です(左に平方数がある時点でそのような数はすべて自動的に自然数となります.なので上の命題にある『自然数』という言葉は『整数』に置き換えても成り立ちます).

厳密にやろうとすると前提知識が結構必要(たとえば雪江整数では第八章の後半にこの命題が書かれている)なので,めちゃくちゃ適当に話します.目標は,この記事を流し読みした全人類を分かった気にさせることです.

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これは宇宙について考える芹沢あさひ。かわいい。


早速やっていきましょう.まずは命題を次のように書き換えます.

 

命題1(言い換え)
y^ 2 +2 = x^ 3 の整数解は  \left( x, y \right) = \left( 3, \pm 5 \right) しか存在しない.

 

たとえば  \left( X , Y \right) が上の方程式の正整数解なら  X^ 3 -1 ,あるいは同じ値ですが  Y^ 2 + 1 が『左を平方数,右を立方数に挟まれた数』になります.なので上の方程式の整数解を求めればいいわけですね( N が左を平方数,右を立方数に挟まれる数字なら,N はある平方数 a^ 21 を足した数で,またある立方数 b^ 3 から 1 を引いた数となるはずです.つまり N = a^ 2 + 1 = b^ 3 - 1 で,N を消去すると a^ 2 + 2 = b^ 3 となり,\left( a ,b \right) は上の方程式の整数解となります).

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これは理解力の高い芹沢あさひ。かわいい。


というわけで上の方程式を解くんですが,まず,因数分解してみます.

 \left( y + \sqrt{-2} \right) \left( y - \sqrt{-2} \right) = x^ 3

たとえば模試とかでこんな因数分解をしたら,まあ間違いなく部分点ゲーになると思いますが,この問題を解く上ではこれが正解なのです.

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これは疑問を呈する芹沢あさひ。かわいい。


皆さんは複素数というものを(流石に名前くらいは)知っていると思うのですが,それに似たような概念として Gauss 整数環 \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-1} \right] というものがあります.これは複素数 a+bia,b を実数全体ではなく整数全体に制限したもので,たとえば 1+i , 9-5i , 3 , 2i なんかは Gauss 整数です.\sqrt{2} i \pi -2i3+e i なんかは Gauss 整数ではないです(これは冗談ですが,e^ {\pi i} + e^ {- \pi i }i は Gauss 整数ですね).

一応,集合として明記しておくと \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-1} \right] は次のようになります.

\mathbb{Z} \left[ \sqrt{-1} \right] = \left\{ a+b \sqrt{-1} \, | \, a,b \in \mathbb{Z} \right\}  

実は Gauss 整数環 \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-1} \right] には素数っぽいものが存在し,さらに素因数分解の一意性っぽいものが成り立ちます! 

つまり,整数問題を解くときによく使う『互いに素』などの概念を,整数環  \mathbb{Z} とほとんど同じように扱えるということです! これは嬉しい.

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これは嬉しそうな黛冬優子。かわいい。

ここで話を戻します.先の因数分解の左辺に注目してください.y + \sqrt{-2} という数が現れていますが,これは(整数)+(整数)\sqrt{-2} という形をしています.\sqrt{-2} の部分がもし \sqrt{-1} ,つまり虚数単位 i なら,これは Gauss 整数環 \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-1} \right] の数ですね.残念ながらいまは \sqrt{-2} で考えるので Gauss 整数の出る幕はないのですが,しかしここで別の整数環を召喚します.察しのいいかたは勘付いているかと思いますが,それは \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] です.

\mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] = \left\{ a+b \sqrt{-2} \, | \, a,b \in \mathbb{Z} \right\}  

しかも整数環 \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] では素因数分解の一意性っぽいものが成り立ちます.やったー!

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これは輝きに近づいた芹沢あさひ。かわいい。

(補足)

足し算や掛け算ができる集合のことを一般に環(ここでは可換なものしか考えない)といい,素因数分解の一意性が成り立つ環のことを一般に一意分解環(UFD)といいます.上の話をまとめると\mathbb{Z} \left[ \sqrt{-1} \right] \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] は UFD だということですが,より強く,この二つは Euclid 環(割り算ができる環)です.一般に Euclid 環は UFD なので,『強い』という表現はここから来ています.

また \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-1} \right] \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] は『二次体の整数環』と呼ばれるものの一種です.他にも \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-5} \right] \displaystyle \mathbb{Z} \left[ \frac{ 1+ \sqrt{13} }{2} \right] なんかが二次体の整数環ですが,二次体の整数環ではいつでも素因数分解の一意性が成り立つわけではありません.なので,「今回は \sqrt{-2} だったから特別うまくいっているだけ」であって,この方法が常にうまくいくわけではありません.

(補足ここまで)

ともかく,\mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] では素因数分解っぽいことができる! 素数っぽいものもある! 割と何でもできる! そういうこと!

最初の方程式に戻りましょう.再掲します.

 \left( y + \sqrt{-2} \right) \left( y - \sqrt{-2} \right) = x^ 3

これを普通の整数問題だと思えば,数学がある程度得意な人なら何となく次のステップは分かると思います.というのも,左辺は整数みたいなものですから,言ってしまえばこれは例えば『 \left( y+1 \right) \left( y-1 \right) = x^ 3 の正整数解を求めよ.』みたいな問題と同じです.それで言えば,左辺にある二つの数の最大公約数は 2 の約数ですから,もし y が奇数なら,正整数 a,b を用いて y+1=2a^ 3 , y-1 = 2b^ 3 と表せるはずで,さらに a,b は互いに素です.両辺引けば 2= 2 \left( a^ 3 - b^ 3 \right) となって,あとは適当にしばけば,このような a,b は存在しないことがわかります.y が偶数なら 2= a^ 3 - b^ 3 を解けばよく,この場合も解なしです.

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これは漠然とした理解を得た黛冬優子。かわいい。

同じようなことをします.すなわち y+ \sqrt{-2}y- \sqrt{-2} を割り切る素数っぽいものがどのくらいあるかを考えてみます.

そのために『 \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] における素数っぽいもの』をある程度正しく定式化しておく必要があります.どうでもええわって人は読み飛ばしてください.

(補足)

p\mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] の数(つまり整数 a,b を使って a+b \sqrt{-2} の形でかける数)として,\mathfrak{p} = \left( p \right)p にすべての \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] の数をかけて作られる集合とします.たとえば \left( 1+ \sqrt{-2} \right) p3 p なんかが \mathfrak{p} の要素です.

p が『 \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] における素数っぽいものである』とは次の条件が成り立つことを言います.

任意の a,b \in \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] に対して,ab \in \mathfrak{p} ならば a \in \mathfrak{p} または b \in \mathfrak{ p }

要するに,『二数の積が集合に入っていたら,うちどちらかが元々集合に入っている』ということです.これは素数の性質によく似ています.というのも,たとえば N2 以上の整数として N \mathbb{Z}N の倍数全体としてみると,この場合  \mathfrak{p} とは N \mathbb{Z} のことであり,上の条件は N素数のときのみに成立します(たとえば N=6 なら 2 \times 3 = 6 \in N \mathbb{Z} ですが,236 の倍数ではありません).

(補足ここまで)

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これは何も分かっていなさそうな芹沢あさひ。かわいい。

以上がある程度正しい定義ですが,細かいことはまあどうでもいいです.最大公約数を求めていきましょう.どうすればよいかといえば(これは整数問題の常套手段ですが)いい感じに引きます(整数 a,b の最大公約数を d とすると,任意の整数 n,m に対して an+bmd で割り切れます.これを使えば,たとえば y+1 - \left( y-1 \right) = 2 であることから y+1y-1 の最大公約数は 2 の約数であることがわかります).

 py+ \sqrt{-2}y- \sqrt{-2} をともに割り切る素数っぽいものとします.すると,

y+ \sqrt{-2} - \left( y- \sqrt{-2} \right) = 2 \sqrt{ -2 } = - \left( \sqrt{-2} \right)^ 3

なので p\sqrt{-2} を割り切ります.さらに,実は \sqrt{-2} 自体が素数っぽいものであることが証明できます.

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これは思考する芹沢あさひ。かわいい。

(補足)

\mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] が一意分解環(UFD)であることは先述の通りですが,UFD では既約元(簡単に言えば,ほとんどどんな数でもこれ以上割り切れない数)と素元(ここまで『素数っぽいもの』といっていたもの)が一致します(一般に,これら二つの概念は異なります).なので,\sqrt{-2}素数っぽいものであることを示すには,\sqrt{-2}\mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] の数ではこれ以上割り切れないことを示せばよいです.

a+b \sqrt{-2}\sqrt{-2} を割り切るとしましょう.二数のノルム(共役複素数を掛けたもの.\left( x+yi \right) \left( x-yi \right) = x^ 2 + y^ 2 のこと)を考えてみると a^ 2 + 2b^ 22 を割り切ることになります.そのような a,b は,これらが整数であることに注意すると \left( a,b \right) = \left( \pm 1 , 0 \right) ,\left( 0 , \pm 1 \right) しか存在しないことがわかり.つまり a+b \sqrt{-2} の候補は \pm 1\pm \sqrt{-2} のみで,このことは \sqrt{-2} はこれ以上割り切れないことを意味しています.よって \sqrt{-2}素数っぽいものです.

(補足ここまで)

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これは結局分からなかった芹沢あさひ。かわいい。

話を戻します.p\sqrt{-2} を割り切り,そもそも \sqrt{-2} 自体が素数っぽいものなので p = \sqrt {-2} です.ということは y + \sqrt{-2}\sqrt{-2} で割り切れることになりますが,ここでまたノルム(直前の補足参照)を考えてみると y^ 2 + 22 で割り切れ,つまり y は偶数になります.しかし y^ 2 + 2 = x^ 3 より x も偶数となり 2=x^ 3 - y^ 2 より 24 で割り切れることになって矛盾.

以上で y+ \sqrt{-2}y- \sqrt{-2} をともに割り切る素数っぽいものがあるとすれば \sqrt{-2} に限ることがわかり,そのうえで矛盾することが示せたので,この二数は( \mathbb{Z} \left[ \sqrt{-2} \right] の中で)互いに素です.

ここまで来ると,もう解けたようなものです.

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これは正直な芹沢あさひ。かわいい。

いや,本当にもう解けてます.

 \left( y + \sqrt{-2} \right) \left( y - \sqrt{-2} \right) = x^ 3

左辺の二つの因子は互いに素,そしてその積が立方数なので,これら二数は独立に立方数となります.つまり

y + \sqrt{-2} = \left( a+b \sqrt{-2} \right) ^ 3

となるような整数 a,b が存在するということです.右辺を展開し,\sqrt{-2} の係数に注目してみると,

1 = 3a^ 2 b -2b^ 3 = \left( 3a^ 2 - 2b^ 2 \right) b

が得られ,これより b= \pm 1 です.b=-1 なら a が整数とならず矛盾で b=1 なら a= \pm 1 が解として得られます.先の関係式の実部に注目すると,

y = a^3 -6 a b^ 2

が得られますが,これに先ほど手に入れた \left( a,b \right) = \left( \pm 1 , 1 \right) を代入すると y= \pm 5 となります.よって初めの方程式

y^ 2 + 2 = x^ 3

に整数解があるならば,それは y= \pm 5 に限り,さらにこのときはちゃんと x=3 という整数解が存在します.以上で命題1が証明できました.

 

命題1
左から平方数,右から立方数によって挟まれるような正整数は 26 しか存在しない.

 

整数自体は無数にあるにもかかわらず,『左を平方数,右を立方数に挟まれる』という条件を課しただけでたった一つに定まってしまうというのが面白いですね.

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これは到達した芹沢あさひ。かわいい。


以上です.明日の担当は……誰なんでしょう?

 

追伸:芹沢あさひ 26 歳概念,めちゃくちゃグッときませんか? 嗚呼,芹沢…….

 

@70ykp